カムチャツカ半島の淡水供給が制御する環オホーツク陸海結合システム

 親潮域が豊かな海である要因は、「アムール川湿原から流出し、オホーツク海大陸棚から海洋循環を通して供 給される鉄分」を通した「陸海結合システム」にある。このシステムの駆動源は、表層を亜熱帯から亜寒帯に流入した海水がオホーツク海で海氷生成時に高塩化して重くなり沈降し、北太平洋中層水となって広がり低緯度に至る、北太平洋の子午面循環である(図 1)。オホーツク海で沈降する海水(高密度陸棚水;DSW)の塩分は、子午面循環の上流側に位置するカムチャツカ半島の降水量に敏感なため、この半島から海洋に流出した河川水が DSW 塩分を通してこの子午面循環の変動を引き起こす可能性が高い。以上より、本研究では、大気変動を海洋に伝えるカムチャツカ半島の降水・雪氷・河川に着目し、DSW の塩分調節を通した子午面循環の変動機構、さらには環オホーツクの「陸海結合システム」に対する制御メカニズムの解明を目的とする。

科研費基盤研究(A)(2017〜2019年度)17H01156(研究代表:三寺史夫)

陸海結合システムの解明 -マルチスケール研究と統合的理解-

 日本列島は北太平洋の西端に位置し、陸と海が接する複雑な地形の一部を担っている。日本周辺にはベーリング海、オホーツク海、日本海、東シナ海、などの縁辺海が存在し、我が国は太平洋を加えたこれらの海から得られる水資源や水産資源を享受している。この水産資源を生み出す栄養物質は、海洋から供給されているだけではなく、陸域からも様々な時間・空間スケールで供給されており、陸と海を跨いだ水循環・物質循環が大きく関わっている。沿岸域のスケールでは、これまでも河川からの淡水や栄養物質供給の影響を評価する研究が進められてきたが、沿岸域特有の複雑なシステムを理解するためには、未だ多くの課題が残されている。また近年になって、これまで陸域との関わりが小さいと考えられていた沖合や外洋域においても、より大きなスケールの海洋循環を介して、陸からの淡水や物質の付加の影響が海盆スケールで表れていることが示された。特に、この大きなスケールの陸と海のインタラクションには、日本周辺に存在している縁辺海が大きな役割を果たしていることが明らかになりつつある。今後、我が国周辺海洋の生物生産や水産資源を生み出すシステムを理解する上では、陸に対して極沿岸、沖合、縁辺海、外洋と複数のスケールにおいて、陸と海の水循環・物質循環を介した繋がり(陸海結合システム)を理解し、それらを統合することが欠かせない。これまでの多くの研究では、陸域、沿岸域、縁辺海域、外洋域とそれぞれ別に研究が進められており、またそれらは海域別に分断されて実施されてきた。また、陸と海の関わりについても、陸―極沿岸、縁辺海―外洋域の研究例がいくつか示されたに過ぎない状況である。本申請の研究では、陸‐極沿岸、極沿岸―沖合・縁辺海、縁辺海-外洋域といくつかのスケールで陸海結合システムを捉え、水循環・物質循環研究の観点から各スケールに存在する課題とその解決方法を抽出し、その課題に取り組み、それらの情報を結合することで、統合的に日本周辺に存在する陸海結合システムの重要性を捉えることを目指す。

北海道大学低温科学研究所共同研究 開拓型研究(代表:長尾誠也(金沢大学))

オホーツク海による北太平洋物質循環の制御機構―縁辺海を介した陸から大洋へのつながり

 北部太平洋では、海洋生態系の底辺を支える植物プランクトンの増殖量が微量栄養物質である鉄分の供給量で制御されています。我々の研究では、環オホーツ ク海域において包括的な観測を実施し、北部太平洋における鉄供給システムの全体像を定量的に捉えることに成功しました。オホーツク海の大陸棚に堆積してい た鉄分は、海氷の生成によって駆動される中層の海洋循環によって北部太平洋まで運ばれており、植物プランクトン増殖量を定量的に説明する濃度となって広範 囲に広がっていることを突き止めました。この発見は、これまで海洋において理解が不足していた「縁辺海を介した陸と海の繋がり」を解明する上で重要な知見 となります。

オホーツク数値シミュレーション

 オホーツク海の北西陸棚域では、海氷生成に伴う濃縮された塩水により重い高密度水ができます。それが中層(300-500m)へと潜り込んで、鉄分など 栄養物質を長距離にわたって輸送します。この陸棚にはアムール川から大量の淡水と太平洋からの高塩の海水も流れ込んでおり、複雑な海峡を呈します。このよ うなオホーツク会を高解像度海洋海氷シミュレーションを用いて研究しています。

宗谷暖流のダイナミクス

 宗谷海峡に3局、紋別・雄武2局の短波海洋レーダーを設置して表層の流速場を観測し、宗谷暖流の季節変動・経年変動とそのメカニズムを調べています。短 波海洋レーダーは、陸上のレーダー局から発した電波が海面で反射されて返ってくる信号から、海面直下の流れを測るものです。2003年8月から運用を始 め、10年以上の期間の連続観測を実施しています。宗谷暖流には、夏に強く(約1m/s)、冬に弱い、明瞭な季節変動が存在することが明らかになっています。

オホーツク海の海洋物理過程

 オホーツク海では、海氷生成に伴い形成された高密度海水の沈み込みおよび潮汐による海氷の激しい鉛直混合が生じています。その影響はオホーツク海から北 太平洋の中層に広がり、海洋循環・物理循環・生態系形成の鍵を握っています。環オホーツク域の経年変動や近年の温暖化も、これらの過程を通して、海洋環境 を変えつつあります。本センターではこうした環オホーツク圏の気候形成・変動の理解向上を目指し、数値シミュレーションや観測を行っています。

山岳アイスコアを用いた北部北太平洋地域の気候・大気環境復元

 アラスカやカムチャツカなど北部北太平洋地域を取り囲む山岳氷河においてアイスコアを掘削し、過去数百年程度にわたる古気候・環境の復元を行い、その変 化のメカニズムの解明を試みています。カムチャツカのアイスコアからはオホーツク地域では1950-70年は夏の日射が強く、日射量の変化は夏の北極振動 と関係があることが示されました。アラスカのアイスコアから、1970年以降アラスカ湾の低気圧活動が活発化し、降水量が増加していることが示されました。

アムール・オホーツクコンソーシアム

 環オホーツク地域の自然環境に関する学術情報を関係各国の研究者と共有し、共同研究および共同環境モニタリングを推進するための多国間学術ネットワーク が「アムール・オホーツクコンソーシアム」です。日本全国の研究者、ならびに中国、ロシア、モンゴルの研究者が参加して活動を行っています。環オホーツク 観測研究センター国際連携研究推進室はその事務局をになっています。
 アムール・オホーツクコンソーシアム ウェブサイト